写真素材の加工のセーフラインを考える。ねぶた写真広告訴訟の場合。 はてなブックマーク - 写真素材の加工のセーフラインを考える。ねぶた写真広告訴訟の場合。

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今回の話は、2月に話題になったねぶた写真改変広告について(なんとも遅い話題だな)。yahooニュースでもトップに出ていた話なので、ご存じの方多いと思われます。

東京の衣類販売店が、有料写真素材サイトから購入したねぶた写真を加工し、広告として使用。その写真に写っていたねぶた制作者サイドが「ねぶたの一部を勝手に書き換え、広告として雑誌に掲載するのは著作権の侵害である」と訴えることに。
で、著作権の侵害と認められる判決が出た、という裁判なんですが。

当時yahooニュースで見ただけでは状況が飲み込めなかったので、この件をあらためて調べてみました。どうも著作権云々ばかりの問題でもないような、意外と一般の人も知っておいた方がいい問題だったので、いまさら覚え書き。

詳細はコチラ→ねぶた写真訴訟:「著作権を侵害」700万円賠償命じる−−地裁 /青森

青森はまだ一回しか行ったことがないんですよ。何年か前、夏の終わりごろに寝台特急で。
なんか空の動きがダイナミックな感じで爽快だったのを思い出します。一週間くらいであちこち見て回りましたが、いいとこですよ。その内また行くと思う…。

一般層には馴染みがないかも?加工・商用利用可の注意点

この裁判、損害賠償額も注目されたようですが、さらに関心を引いたのは「問題の写真を、写真販売サイトから購入し」ており、「販売サイトは広告作成のための加工も可」としていたという点でしょう。

一見、「正規の手段で入手した写真(商用利用・加工可)を使って広告作ったら、著作権侵害で訴えられた。どゆこと!?」という状況に読めます。いや、被告側からは実際そういう状況です。そして、このニュースに対する一般人の反応も、この部分に「どゆこと!?」な方が多かった様子です。

私自身も、写真素材サイトさまにはお世話になっていますし(無料メインですが)、他人事ではない今回の一件。
この「どゆこと!?」に対する回答は、各写真素材サイトの利用規約や免責事項にあります。

試しに、検索ワード【写真素材】で上位ヒットした写真素材サイトを、10サイトばかり確認してみました。細かい文字と長い箇条書きで、読み飛ばしてしまう人も多数の利用規約・免責事項。文章に多少の差はあれど、大体のどこのサイトでも記載されているのが以下の文言。噛み砕いてまとめてみます。

1、「写真を利用する権利は認めるが、写真そのものの著作権は放棄しない」こと。
つまり、写真を買っても「この写真、俺が撮影したんだ」とか言ってはダメよってこと。
2、写真素材の中には「写っている人物・物品・建物・場所等についての肖像権・商標権・著作権・特許権・意匠権・利用権を持っていないものもある」こと。つまり、「撮影者は写真の使用を許可しますが、必ずしも被写体自身も許可してくれてるとは限らない」ってこと。

だから「何に使うかは勝手だけど、使用用途によっては被写体の許可が必要な場合があり、その辺は自分でやってね」、「写真を使用することで発生するどんなトラブルにも、当サイトは一切の責任を負いません」よ――。

…と、しっかり書いてあるサイトがほとんど。
販売されてる写真は『商用・加工可』といえども、商用利用については制限や、被写体へ配慮、確認が必要な場合があるのです。

今回の件では著作権の問題も含まれていますが、「買った写真でも完全に自由に使えるわけじゃないよ、商用利用の際は被写体の権利にも配慮する必要があるから、気をつけないといかんのだ」と、被告の主張は認められなかった。…と、こういうことなんだと思います。

写真にまつわる権利や主張

被写体サイドの「使っていいよ」の証、モデルリリース・プロパティリリース取得済みの素材も、何にでも使えるわけではありません。

  • ・わいせつもしくは公序良俗に反する利用の禁止
  • ・風俗産業や性的内容などアダルト関係での利用の禁止
  • ・被写体が特定の営業、商品、サービスを利用又は推奨しているような印象を与える使用の禁止
  • ・被写体の名誉又は信用の毀損につながるような使用の禁止

…など、この辺りは大体のサイトが禁止しています。
良識をもって使えば問題ないレベルの禁止事項ですが、どういう写真を買っても、すべてが自由になるわけじゃないってことを、利用者は理解しておかねばなりません。

さて、この辺ふまえて、本題のねぶた写真訴訟の件を考えます。

今回の争点は、著作権ということなのだが

ねぶた写真訴訟の場合、ねぶたがメインの被写体だったようです。青森のねぶた祭りで見られる、巨大な武者絵の人形灯籠。現物を見たことはなくても、TVや写真などで誰もが一度は目にしたことあるはずの、あの『ねぶた』です。

興味のない人は「祭りの山車みたいなもの」という感覚で認識しているので、ねぶたに『著作権』があるという主張を意外に感じた人も多かったようです。

でも仮に、『ねぶた』ではなく、『毎年新作を作る巨大立体造形』だと考えたらどうでしょう。構図を考えて、下絵に起こして、寸法計算して立体にして、最終的に高さ5mの立体造形物(ライトアップ仕様)を作り上げる。
そもそも原型となる武者絵自体、各制作者が題材を選んでそれぞれ独自に描くものだそうですから、やっぱりねぶたは『著作物』なわけです。作者が存在する、オリジナル作品と言えるのですね。

『著作権侵害』は、『著作者の「権利を侵害されました」という訴えによって成立するもの』だそうです(いわゆる親告罪)。
著作権は、特に営利目的の使用において発生することの多い権利ですが、ざっくり言うなら、作者の持ってる『自分の作品を勝手に使用させない・勝手に作品の内容を変えさせない権』と言ったところでしょうか。

今回、「著作権って、ブログなんかの写真はどうなのよ? ねぶた観てきたー、とかさ」という疑問も目にしましたが、個人が祭り風景として撮ってきた写真を、「個人的な思い出として」ブログで公開するのは普通にセーフだと思います。
本来ねぶた作品は、祭りの中で不特定多数の人の目に披露され、その見事さを競い合うものなわけですし。
ねぶたに限って言えば、ブログや個人サイトで「すごかったんだよ!」と紹介する分には、営利目的ではないし、作者を騙るわけでもないし、作品を貶めることでもないので、作者の権利は特に侵害しないと思うのです。
(注:複製権や公衆送信権に抵触するんじゃないの?ということも考えられますが、営利目的でなければこの辺はセーフではないかと。ただし、私自身は法律に詳しくないので、気になる方はご自身で確認してください。この記事は責任を負いません。)

今回の場合、広告という商業的なコンテンツで作品の姿を勝手に利用されたことが著作権侵害となったわけですね。

問題は、加工というより『改変』に近かったこと。

さて、ここで訴訟内容のおさらいです。
東京の衣類販売店が、作者・所有者の許可なくねぶたの写真を加工して広告に使用。「無断でねぶた作品を使うことは著作権の侵害である」とねぶたサイドが訴え出て、それが認められました。

  • 1、作者・所有者の許可なしに、自店の広告に使用したこと
  • 2、出資企業のスポンサーロゴ部分を、自店のホームページアドレスに書き換えたこと
  • 3、まといの一部を自店名に変更したこと

記事から読みとるに、この3点が、ねぶた作者(&所有団体)の権利侵害を具体的に示した箇所です。1は、ここまでの説明と照らし合わせても著作権侵害と認定されそうですね。

2と3は、ちょっと文字載せるくらい…、と思う方もいるかもですね。でも、これはやっぱりNGなんです。実際のねぶたを見てもらうと、より理解できるかもしれません。
→青森ねぶた祭オフィシャルサイト≫男伊達と不動明。かっこいいですよ。

スポンサーロゴは台の部分に。そして『まとい』は、本体右の火消が担いでるあれです。この部分をそれぞれ自店の情報に書き換えた。この部分の問題点を解説してみます。

スポンサーロゴへの加工問題

2のスポンサーロゴについては、そのまま広告に掲載するのも問題ですが(A社の広告なのにB社のロゴがばっちり写りこんでるのはマズイんでないか?)、スポンサーロゴ枠の情報を入れ替えるのはもっと問題です。出資企業だからこそ、台に企業名を載せる権利があるのに、その企業名が他所の宣伝情報に変えられて広告にされてしまったら?

しかも、台にスポンサーロゴが入ることを知ってる人が見たら、他所ン家のねぶたみたいに見えてしまう恐れがある。これ、ねぶた側にとって相当に不利益・不快だと思うんです。

例えるなら、スポーツ選手の写真素材があったとして(権利的に普通あるわけないけど)、無断でユニフォームやウェアについてるスポンサーロゴを消して、自社のアドレスに変えて広告に使うような感じでしょうか。

……いや、それはマズんでないかな? まあ、この例え話は無理がありますが、台部分の書き換えはそういう類の行為なわけで。
こう考えるとやはり権利の侵害につながりますし、ねぶた団体としても、自分たちのねぶたが知らない店と関係があるみたいに誤解されるのは困ると思う。よって、2の部分も納得できます。

まといの一部を加工問題

ここでは、ニュース記事にある『まといの一部』とは、『に』と描かれているまといの先端部分を指している、と仮定して話を進めます。

まといに自店名を加える、も同じくねぶたが衣類販売店と関わりがあるように見える加工であり、むしろ「衣類販売店のためのねぶたみたいに見えてしまうんでは?」という危険性をはらんでいます。
そもそも、まといに描かれている『に』は、に組の『に』でしょう。に組のねぶただから、まといに『に』をあしらったんだと思います。つまり所有・所属団体の印の部分です。
自分たちを示す文字を、他店のロゴに変えられる。これもまた権利の侵害ですが、それ以上に、ちと失礼な話ではないですかね?

祭りの『組・連』の名は、所属している者にとって重要な意味を持っています。祭りが地元民に愛されていれば愛されているほど、『ウチの組』、『ウチの連』の名前に自負や愛着を持っているものです。例えるなら、代々受け継ぐ家紋とか、店の看板やのれんのような、そんな大事さを持ってるんじゃないかな。
祭りの装束や提灯、袢纏・法被などに、染め抜かれていることも多い所属の祭り組の頭文字や紋ですが、そこを無断で書き換えられて黙っているってわけには、いきませんよ。

………や、私はどこの祭り団体も所属してないので完全に想像でしかありませんが。

心情的な問題を別にすると、2と3に関しては、著作権的には『同一性の保持』権の侵害になりそうです。大雑把に言えば、『作品の内容を勝手に変えさせない権利』で、台を含むねぶた本体の改変加工が、これに抵触しているとも考えられます。
ついでに、被写体が特定の営業(この場合は衣類販売店)に関係しているように見える加工なので、サイト利用規約の定番禁止事項にも触れそうです…。

…こうしてみると今回の事例は、やっぱり著作権侵害になってしまうし、ねぶた側の『そんな使い方は困る』という主張も、「確かに困るだろうなー」と納得できます。

実際の広告内容は分からないので何とも言えませんが、衣類販売店の意図としては、「自店の物であるわけない物が、自店仕様になっている」という、少しクスっとさせるようなジョーク風の広告のつもりだったのではないかと想像しています。
単純にインパクトある画が欲しくて、まさか被写体にこれほどの権利が関わっているとは、思っていなかったんじゃないかと。悪意ではなかったにしろ、加工内容が問題を引き起こすことはあり得るんですよね。

振り返ってみれば問題点が分かるのに、その渦中では気付けず進んでしまうこと。
なんで見落としたんだ、自分!? …って感覚は、誰しも身に覚えがあるのではないかな。
知らずにボーダーライン越えてたとか、私も気をつけなくては…。

どうすればセーフだっただろう、と考えてみる

確実なのは、商用利用の際は被写体に確認すること(使う写真にもよりますが)。許可を得てしまうのが一番でしょうが、さりとてその手間が割けない状況もあるので、その場合は別の(権利の絡まないような)写真に変更するなど選択肢もありますね。
以下は私なりの、「衣類販売店の広告にねぶた写真を使うならこんな感じにしてみる」です。

1、ねぶたがメインの被写体ではないものを選ぶ
祭り風景として、ねぶたが周囲に溶け込んでいるような写真(写っていても端に小さく、などねぶた自体が主役になっていないような写真)を選ぶ。いわゆる風景の一部としての写り込みであれば、著作物に対しての影響も抑えられそう。
2、写り込んだ企業ロゴをうまく隠す
祭りの雰囲気に合わせてレンズフレア、ぼけやブレ風の加工で違和感なくさりげなく隠したり、トリミングする(この加工は、こちらの広告内容に他社を関係させないために)。
3、被写体の中に、直接店の宣伝やコピーを載せない
被写体内容の書き換えではなく、あくまでイメージ写真を背景に使う感じに留める。
4、『青森・ねぶた祭り・東北・日本の祭り』など、写真イメージに関係のある広告に使用する
ただの店のセール告知とかではなく、例えば「東北の伝統技法を取り入れた小物・アクセサリーのフェア」告知に使うとか、できるだけねぶたの写真を使う意味が明確にある広告に使いたいところ。

ま、こんな感じに使っても、法的に問題があるかもしれませんが…。各権利者が不快に思えばNGですし、広告として成立するのかは謎ですけども。うーん、どうだろう。

被写体に迷惑かけないような配慮をすること。
自分が素材として使う写真は、『誰かの写真』でもあるってことを忘れないこと。案外、この辺を意識すれば大きな問題は避けられるように思います。意識と言っても結局は自己判断なわけで、避けられない場合もあるとは思いますが…。

最近はデザイン業じゃなくてもデザインソフト使える人が多いですし、写真素材だって各サイトが取り扱っている。簡単なものなら、自分たちでちょちょっと作れてしまう時代です。
だからこそ、一般の人たちにとっても、この問題は無関係なものではなさそうです。

私は、大丈夫だろうか…?

この記事は、訴訟ニュースをもとに管理人が個人的に問題整理を試みたものです。管理人に正確な法律の知識はありません。
記事の内容が、法的根拠をともなっている保証はありません。
素人による、一意見であることをご了承ください。


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  • 2016年3月26日

    知って得する!画像素材サイト | 書評 Book Cafe SOPIER

    […] 詳しい解説は、kamimuRaさんの秀逸な記事「写真素材の加工のセーフラインを考える。ねぶた写真広告訴訟の場合。」に譲りますが、写真素材の利用に際しては、各素材サイトの利用規約や免責事項をしっかり確認する必要があるということ!! […]

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